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医療従事者のための“働き方改革”総まとめ


  • 働き方改革関連法によって,時間外労働の上限や勤務間インターバル制度等が施行された
  • 医師の働き方改革は2024年4月から適用。時間外労働の上限は他の職種と同じだが,例外規定がある
  • 医師の宿日直と自己研鑽については注意が必要

1 働き方改革とは

 2015年12月,大手広告代理店の若手社員が長時間労働の末に過労自殺しました。1カ月の時間外労働が105時間に及ぶ過酷な労働の実態がメディアで取り上げられて大きな社会問題となり,政府は2016年9月,働き方改革実現会議を設置しました。

1.1 働き方改革実行画

 働き方改革実現会議での議論を踏まえ,政府は2017年3月に「働き方改革実行計画」を作成しました。計画では「働き方改革こそが,労働生産性を改善するための最良の手段」と働き方改革の意義を位置付け,計画に基づいて関係法案等を国会に提出することとされました。

働き方改革実行計画:総理大臣が議長となり,労働界と産業界のトップと有識者が集まった「働き方改革実現会議」において,「非正規雇用の処遇改善」「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」など9分野について議論が行われた。その成果として「働き方改革実行計画」が2017年3月にまとめられた。

働き方改革実行計画のテーマと対応策

検討テーマ対応策
1.非正規雇用の処遇改善①同一労働同賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備
②非正規雇用労働者の正社員化などキャリアアップの推進
2.賃金引上げと労働生産性向上③企業への賃上げの働きかけや取引条件改善・生産性向上支援など賃上げしやすい環境の整備
3.長時間労働の是正④法改正による時間外労働の上限規制の導入
⑤勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備
⑥健康で働きやすい職場環境の整備
4.柔軟な働き方がしやすい環境整備⑦雇用型テレワークのガイドライン刷新と導入支援
⑧非雇用型テレワークのガイドライン刷新と働き手への支援
⑨副業・兼業の推進に向けたガイドライン策定やモデル就業規則改定などの環境整備
5.病気の治療,子育て・介護等と仕事の両立,障害者就労の推進⑩治療と仕事の両立に向けたトライアングル型支援などの推進
⑪子育て・介護と仕事の両立支援策の充実・活用促進
⑫障害者等の能力を活かした就労支援の推進
6.外国人材の受入れ⑬外国人材受け入れの環境整備
7.女性・若者が活躍しやすい環境整備⑭女性のリカレント教育など個人の学び直しへの支援や職業訓練などの充実
⑮パートタイム女性が就業調整を意識しない環境整備や正社員女性の復職など多様な女性活躍の推進
⑯就職氷河期世代や若者の活躍に向けた支援・環境整備の推進
8.雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援,人材育成,格差を固定化させない教育の充実(上記⑭)
⑰中途採用の拡大に向けた指針策定・受入れ企業支援と職業能力・職場情報の見える化
⑱給付型奨学金の創設など誰にでもチャンスのある教育環境の整備
9.高齢者の就業促進⑲継続雇用延長・定年延長の支援と高齢者のマッチング支援

1.2 働き方改革関法

 働き方改革実行計画の内容を基に,政府は労働基準法をはじめ,8本の法律改正案を束ねた「働き方改革関連法案」を国会に提出。2018年6月29日に可決・成立しました。関連法によって決められた施策は下記のとおりです。

労働時間に関する制度の見直し(労働基準法,労働安全衛生法)2019年4月1日施行
①のうち中小企業への適用は2020年4月1日
②は2023年4月1日
①時間外労働の上限:原則は月45時間,年360時間。臨時的な特別な事情がある場合は年720時間,単月100時間未満(休日労働含む),2~6カ月平均80時間(同)を限度に設定。自動車運転業務,建設事業,医師等は猶予期間を設けたうえで規制適用等の例外あり
②中小企業の残業代の割増率引上げ:月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について,中小企業への猶予措置25%を廃止
③年次有給休暇消化:10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し毎年5日,時季を指定して付与
④高度プロフェッショナル制度の創設:年収が高い一部の専門職を労働時間規制から外す。対象業務は金融商品開発やディーリング,コンサルタント,研究開発など
労働者の健康確保措置の実効性を確保する観点から,労働時間の状況を省令で定める方法により把握(労働安全衛生法)
勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)
⑥勤務間インターバル制度:前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努める
産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)
⑦産業医機能強化:事業者から産業医に対し,業務を適切に行うために必要な情報を提供するなど,産業医・産業保健機能の強化を図る
不合理な待遇差を解消するための規定の整備(パートタイム労働法,労働契約法,労働者派遣法)2020年4月1日施行
中小企業は2021年4月1日
⑧同一労働同一賃金:不合理な待遇差を解消するための規定の整備
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(パートタイム労働法,労働契約法,労働者派遣法)
短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について,正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化
行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
上記⑧⑨の義務について,行政による履行確保措置及び行政ADRを整備

勤務間インターバル制度:勤務終了後,一定時間以上の「休息時間」を設けることで,労働者の生活時間や睡眠時間を確保するもの。2018年6月に成立した「働き方改革関連法」に基づき「労働時間等設定改善法」が改正され,前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することが事業主の努力義務として規定された。

同一労働同一賃金:同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者,パートタイム労働者,派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すもの。

2 医師の働き方改革

2.1 医師の長時間労働の実態

 2012年の総務省の調査によると,職種別で1週間に60時間以上働く労働者の割合は,医師が41.8%で最も高い割合となっていて,雇用者全体の平均の14.0%を大きく上回りました。
1週間の労働時間が週60時間を超える雇用者の場合

 また,医師の長時間労働をめぐっては,労働基準監督署による医療機関への立入調査や指導・勧告が相次ぎました。読売新聞が2018年1月,地域医療の中心となる全国349病院に行った調査によると,そのうち99病院で労働基準監督署から是正勧告を受けていたということです。

2.2 医師の働き方改革へ向けた取組み

(以下の出典:『月刊/保険診療』2020年9月号 病院クリニック経営100問100答)

 「働き方改革実行計画」や「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の提言を受けて,2017年8月に医師や労働法の専門家らによる医師の働き方改革に関する検討会が設置され,医師の時間外労働規制を中心に議論を行いました。そこで基本的な枠組みが取りまとめられ,2024年4月から適用されます。

 医師についても,時間外労働の上限は1カ月45時間,1年360時間が原則であることは,他の労働者と同様です。ただし,通常予見できない業務量の大幅な増加等に伴い,臨時的に原則的な上限時間を超えて労働させる必要がある場合として,3つの例外が認められています。

〈A水準〉
 第1に,診療従事勤務医に2024年度以降適用される水準(A水準)として,1年960時間,1カ月100時間(いずれも休日労働を含む)まで時間外労働が認められます。面接指導により個人ごとの健康状態をチェックし,医師が必要と認める場合には,就業上の措置を講ずれば,1カ月100時間以上の時間外労働が認められます。この場合も1年960時間を超えることはできません。
 A水準を適用するためには,連続勤務時間28時間と勤務間インターバル9時間を確保し,やむを得ない事情でこれらが確保できなかった場合には,代わりに休息をとることが努力義務とされます。


〈B水準〉
 第2に地域医療確保暫定特例水準(B水準)として,1年1,860時間,1カ月100時間(いずれも休日労働を含む)まで時間外労働が認められます。例外的に1カ月100時間以上の時間外労働が認められるのはA水準と同じです。
 B水準は地域医療の観点から必須とされる機能を果たすため,やむなく長時間労働となる医療機関(三次救急医療機関等)のなかから,各都道府県が2024年4月までに特定したものに限って適用されます。特定された医療機関の全医師にB水準が適用されるわけではなく,特定される事由となった「必須とされる機能」を果たすために必要な業務に従事する医師に限られます。
 B水準を適用するためには,連続勤務時間28時間と勤務間インターバル9時間の確保,代替休息が,努力義務ではなく必ず実施すべき義務とされます。

〈C水準〉
 第3の集中的技能向上水準(C水準)は,時間外労働の上限と例外,連続勤務28時間と勤務間インターバル9時間の確保,代替休息についてはB水準と概ね同じです。
 C水準は,一定の期間集中的に技能向上のための診療を必要とする医師向けの水準で,①初期・後期研修医が研修プログラムに沿って基礎的な技能や能力を習得する際に適用するものと,②医籍登録後の臨床従事6年目以降の者が,高度技能の育成が公益上必要な分野について特定の医療機関で診療に従事する際に適用するものがあります。
*     *     *
 B水準は暫定的な特例ですので将来はなくなり,C水準の対象業務を除き,2035年度末を目標にA水準に収斂していくとされています。C水準も将来に向けて縮減方向とされています。

2.3 規制が始まる2024年4月までの段取り

 第1回医師の働き方改革の推進に関する検討会資料(2019年7月5日)によれば,2024年4月までの見通しは,おおよそ以下のとおりとなります。

 医療機関によって医療機能や勤務実態(時間外労働時間数)等は様々ですが,まずは労務管理の適正化を進め,なるべく多くがA水準の者のみの医療機関となるような取組みや,国・都道府県による支援策が必要とされています。遅くとも2021年度からは,各医療機関において医師労働時間短縮計画の策定が推奨または義務化され,PDCAサイクルによる取組みが進められます。
 そして,遅くとも2022年度からは,都道府県から独立した評価組織(評価機能)によって,医療機関の労働時間削減の実績と取組みの評価が始まります。具体的には,2022年度に全B・C水準候補の医療機関に対して書面評価を実施し,2023年度には書面評価で評価の低かった医療機関に対して訪問調査を実施します。評価結果は公表されるとともに,医療機関および都道府県に通知される予定です。
 各都道府県は医療機関からの申請に基づき,計画の取組み状況と評価機能による評価結果を踏まえて,B水準を適用する医療機関を特定します。
 C水準を適用する医療機関については,医療機関が臨床研修・専門研修プログラムにおける時間外労働時間数を明示するとともに,専門研修プログラムについては国レベルの審査組織による医療機関の個別審査を踏まえて,都道府県が医療機関からの申請に基づき特定します。

2.4 注意点~宿日直時間と自己研鑽

〈宿日直〉
 医師の宿日直時間について,労働基準監督署の許可を受ければ時間外労働の対象から外すことができ,割増賃金を支払う必要はありません。以下が許可基準です。

①次に掲げる条件のすべてを満たし,かつ,宿直の場合は夜間に十分な睡眠がとり得るものである場合に,宿日直の許可を与える。
・通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものである。
・宿日直中に従事する業務は,一般の宿日直業務以外には,特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限り,通常の勤務時間と同態様の業務は含まれない。
・一般の宿日直の許可の際の条件を満たしている。
②宿日直の許可が与えられた場合において,宿日直中に,通常の勤務時間と同態様の業務に従事すること(医師が突発的な事故による応急患者の診察又は入院,患者の死亡,出産等に対応すること等)が稀にあったときについては,一般的にみて,常態としてほとんど労働することがない勤務であり,かつ宿直の場合は,夜間に十分な睡眠がとり得るものである限り,宿日直の許可を取り消す必要はない。
また,当該通常の勤務時間と同態様の業務に従事する時間について,時間外労働の手続がとられ,割増賃金が支払われるよう取り扱う。
③宿日直の許可は,一つの病院,診療所等において,所属診療科,職種,時間帯,業務の種類等を限って与えることができるものである。
(令1基発0701第8号)

 つまり,医師の場合には,いわゆる寝当直でなければ宿日直の許可を受けることができないという考え方もあり,許可を受けられない宿日直時間は,先に述べた医師の時間外労働に加えて考えなければならないということにご注意ください。
〈自己研鑽〉
 医師が自らの知識の習得や技能の向上を図るための学習,研究等(自己研鑽)については,労働時間に該当しない場合と労働時間に該当する場合があり得るため,注意が必要です。
 特に所定労働時間外に行う医師の研鑽は,診療等の本来業務と直接の関連性がなく,かつ,上司の明示・黙示の指示によらずに行われる限り,一般的に労働時間に該当しません。他方,研鑽が上司の明示・黙示の指示により行われる場合には,これが所定労働時間外に行われるものでも,または診療等の本来業務との直接の関連性なく行われるものでも,一般的に労働時間に該当します。
 例えば,一般診療における新たな知識,技能の習得のための学習,博士の学位を取得するための研究および論文作成や,専門医を取得するための症例研究や論文作成,手技を向上させるための手術の見学など,業務上必須ではない行為を,自由な意思に基づき,所定労働時間外に自ら申し出て,上司の明示・黙示による指示なく行う場合,在院して行ったとしても一般的に労働時間に該当しません。

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